白杖と恋愛模様【BLマンガ感想】こいかわ『小木くんのなつやすみ』レビュー

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こいかわ「小木くんのなつやすみ」 

あらすじ

夏休み初日、大学生の小木春叶がひと目惚れしたのは、全盲のイケメン高校生・田子真也。すぐに打ち解けて仲良くなった二人だが、自分が恋心を寄せられているとはまるで気付いていない田子に、小木は振り回されてばかりで──!?

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「小木くんのなつやすみ」 作品紹介(あらすじ)

作品名

小木くんのなつやすみ
(現在2巻)

作者名

こいかわ

レーベル

ハルト

あらすじ

夏休み初日、大学生の小木春叶
ひと目惚れしたのは
全盲のイケメン高校生・田子真也

すぐに打ち解けて仲良くなった二人だが、
自分が恋心を寄せられているとは
まるで気付いていない田子に、
小木は振り回されてばかり。

指をさわらせてほしいとお願いされたり、
ここの体位どうなってるか教えて
と押し倒されたり―――
絶対カオ真っ赤になってるけど、
見えてないからセーフ!?

友達のままでいることを選んだ小木だが、
田子が小木の気持ちを知ったとき
驚きの行動に出る!

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こいかわ「小木くんのなつやすみ」 

「小木くんのなつやすみ」 作品の雰囲気

コミカル←|―|―|●|―|―|→シリアス  
物語重視←|―|―|●|―|―|→人物重視
台詞重視←|―|●|―|―|―|→表情重視
けんぜん←|―|●|―|―|―|→えちえち
さわやか←|―|―|●|―|―|→じめじめ
現実主義←|―|●|―|―|―|→非現実的
特殊設定←|●|―|―|―|―|→王道設定
攻の良さ←|―|―|●|―|―|→受の良さ

「小木くんのなつやすみ」 攻めキャラ情報

田子 真也(たご・しんや)

#黒髪 #高身長 #細身 #16歳 #高校生 #次男 #兄 #ノンケ #強引 #マイペース #自己中

 「兄属性の小木くんと弟属性のオレ 相性ばっちりということね」(1巻27ページ)
 「いいの? オレ 本当に頼っちゃうよ?」(1巻46ページ)
 「冒険するのもありだよね」(1巻68ページ)
 「恋愛的な意味で好きじゃないと付き合っちゃいけないんですか?」(1巻105ページ)
 「今日来るのオレの彼氏だよって言わなかったっけ」(1巻137ページ)

出典:こいかわ『小木くんのなつやすみ』(スタジオC.I、2020年)

「小木くんのなつやすみ」 受けキャラ情報

小木 春叶(おぎ・はると)

#茶髪 #小柄 #細身 #マニキュア #ジェンダーレス男子 #19歳 #大学生 #長男 #妹 #ゲイ #ピュア #遅刻魔 #臆病

 「ははァ さては童貞とみた! この動画で緊張するとは小木くんもまだまだ……」(1巻34ページ)
 「イヤだったからじゃないよってそこはちゃんと伝えたかった……ので電話しました 急にごめん」(1巻45ページ)
 「田子くんと付き合ったとして 田子くんがオレを好きになってくれることはあるんだろうか ……ありえない」(1巻72ページ)
 「”初めて”はされる側だとばかり思ってた けどそうか オレからするってこともなくはないのか………」(1巻83ページ)
 「服どうしよう 髪も…… あ こないだ買ったやつ使ってみちゃおうか ってまた遅刻だーっ」(1巻125ページ)

出典:こいかわ『小木くんのなつやすみ』(スタジオC.I、2020年)

「小木くんのなつやすみ」 攻めと受けの比較

年齢:攻 < 受
身長:攻 > 受
体格:攻 = 受
階級:攻 = 受
立場:攻 = 受

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こいかわ「小木くんのなつやすみ」 

「小木くんのなつやすみ」 1巻の感想

こんな名作が電子書籍だけで埋もれてしまう
(現在は電子書籍でのみ販売)とはもったいない!!!
というくらい、本当にオススメです。

電子書籍に手をつけていない方は、
この作品のためだけに電子書籍デビューしていい、
そう言っても過言ではない。

少し前までは、電子限定の作品って
「はい、エロですよ〜」
「はい、過激ですよ〜」みたいな、
良くも悪くも同人誌っぽい作品が多かったのですが、
(そのわりに紙の本よりも修正が濃いという矛盾)
こんなにしっかりした作品が出てきたんだ〜!
と感動すら覚えました。

雑誌は電子だけど単行本は紙の本でも出すよ、
ってレーベルはそれなりにありますが、
純粋に電子書籍のみでの作品で
良いものが出てきました。すごい。

絵はスッキリとしていて見やすく、
好き嫌いの出ない、万人受けのタイプ。
萌え要素や少しのエロ、ライバル女など
BLの様式美もちゃんと備えながら、
すごく深いテーマを扱っています。
なのに、重たくない。
説教がましくない。
これが素晴らしい。
絵のタッチもそうなんですが、
物語の構成も、すごくサラッと、フワッと読めて、
けれど時に急所を刺す作品なんです。

同性愛をテーマとした物語って、
「それでも好きだって言える?」
が主題になっていることが多いと思うんですが、
本作品は、さらに一歩踏み込んでいます。

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こいかわ「小木くんのなつやすみ」 

メインのカップル、とても考えさせられるのです。
二人でいるときの周囲の反応が、
通常のBLよりもさらに色濃い。

田子くんと小木くんが一緒に遊んでいるとき、
小木くんの知人が田子くんの白杖を見て
「今日はどしたん? ボランティア?」と
話しかけてきて
「そうか そう見えるんだ さすがに恋人には見えないか」
とショックを受けるシーン。

ジェンダーレス男子な小木くんが、
マニキュアを塗り、お化粧して、
愛らしい服装で田子くんに会いに行く。
それに対し、田子くん兄から
「あ わからないから真也なの?」と聞かれ、
「”オレ”が田子くんと一緒にいるとそう見えてしまうんだ」
と葛藤を抱くシーン。

こういった胸に刺さるシーンが、
ふっと登場し、ふっと去っていきます。
一つの問題に悶々と悩むことなく、
次々とやってくる。
そういうのが「当たり前」の世界だから。
このバランスが、すごくリアル。
本当に良作です。

また、周囲のキャラも素敵。
ライバル女の佳奈子さん、
一見イヤな子なんだけど、
田子くんを対等に扱っているのが良い。
「小木と貴方が一緒にいるのがイヤなの」
とは言うんですが、
その理由が障碍者だからとかじゃなく、
小木のことが好きだから、
自分と一緒にいてほしい、その一点なんです。

無意識に差別する人もいれば、
無意識に対等に接してくれる人もいる、
そういったリアリティも感じさせてくれる作品。

また、中身を知れば、
都合よく盲目者という設定を入れているのでなく
きちんと調べていると判ります。
綺麗事だけじゃないからこそいい。

たとえば、
田子くんが「ここの体位どうなってるか教えて♡」と
小木くんにアダルト動画を見せながら迫る場面。

以前、障碍者専用のセックスワーカーが特集されている
テレビ番組を見たことがあります。
利用者である男性が、
「障碍者というと何故か聖人的な扱いを受けるが、
僕らにも性欲はあるし、神聖視しないでほしい」
そう仰っていて、そうだよなぁ、
と思ったのを思い出しました。

こういった、細やかなリアルさが醍醐味の作品です。
ぜひご一読ください。

惜しむらくは、合本版(単行本版)の表紙より
単話版の表紙のほうがよかったことですかね。

ちなみに単話版はこちら。

ここで、合本版をもう一度。

綺麗ではあるんですが、本質でないのです。

単話版の小木くんはマニキュア+お花のビーサン+上下着服で
乙女チックなところがあると分かるんです。
田子くんも、白杖があるので
「盲目の〜」と書かれていたら
文字通り盲目なんだなって理解できる。
合本版はその要素が
すべて無になってしまっているのです。

小木くんのマニキュアも見えないし、
ゴーグルも至って普通。
田子くんも白杖を持っておらず、
ただ目を閉じているだけに見えるので、
「溺愛」という意味での「盲目」に見えてしまう。

もし今後、紙の本でも1巻を出すってなったときは
単話版(もしくはそれに近いニュアンス)の
カバーイラストにしたほうが絶対いい……!

2巻以降とかならこういう表紙でいいけど、
1巻は、この独特な設定をちゃんと活かしたほうが
ちゃんとしたターゲットに届きますしね。

障碍者に対する差別フンスフンスと言ってくる方々のための
対策なんでしょうか。
でも、この作品は至って真摯ですし、
きちんと下調べしたんだなって、読めば分かるので、
堂々としていてほしいと思います。

もしくは、変に「あー障碍がテーマか、重たそう」
と避けられないためなのかなぁ。
それでも、絵のタッチや色使いが重く見させないという
最大の利点がある作家さんなので、
その長所を活かしたほうが良かったんじゃないでしょうか。
作家さんによっては、どんなにポップ路線で描いても
どこか耽美すぎて薄暗い印象を与えてしまうこともありますが、
こいかわ先生はそうならない描き手。
見せ方次第でもっと売れそうですし、
隠れた名作なので皆さんに読んでほしいです。

表紙で
「ああ、エロ少なめで、
 綺麗めな高校生たちの青春物語系ねー。
 表紙見て中身大体分かるわ。」
って思っていた人こそ買ってください。
そんなんじゃない、本当にいい作品です!

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