結末に賛否両論【BL漫画感想】はらだ『にいちゃん』レビュー

結末に賛否両論【BL漫画感想】はらだ『にいちゃん』レビュー

「病み系BL」と言えばコレ! というほど代表的な作品『にいちゃん』。はらだ先生による2017年の漫画です。5年経っても未だに名前が挙がるほど衝撃的。ドラマCD化もされ、斉藤壮馬さんと加藤将之さんが声を当てています。

カバーイラストの雰囲気、そして「にいちゃん」というタイトルから不穏な空気がひしひしと伝わってきます。物語は、幼少期に猥褻な行為をしてきた年上の男「にいちゃん」に執着する少年の話。この導入だけで人を選ぶ作品だということが分かりますね。

かなり多くの方がレビューを挙げているので今更感あるのですが、あらためて考察していきます。

はらだ『にいちゃん』 作品紹介(レーベル・作品の雰囲気)

ねぇ、愛を証明して?

タイトルにいちゃん
著者はらだ
レーベルCannnaコミックス
出版社プランタン出版
発売日2017年4月28日
連載完結済み
(1巻完結)

幼い頃、近所のにいちゃんに手を出され、現場を母親に見られてしまったゆい。それを境に、いつも遊び相手になってくれていたにいちゃんは姿を消し、親からは過保護なまでの監視を受けるようになってしまった。あれから時が経ち、にいちゃんを忘れられないゆいは、ある日もあてもなく街を徘徊し、そして、ついに再会の日がくる――。しかし、久しぶりに会ったにいちゃんは、昔のような優しいにいちゃんではなくなっていて……。ふつうってなに まともってなに これはいけないこと…?

作者プロフィール

はらだ

デビューコミックスは6作の短編を収録した『変愛』(リブレ、2014年)。最新コミックスは『ハッピークソライフ』3巻。現在連載中の作品は『ハッピークソライフ』。

作品の雰囲気

コミカル←|―|―|―|―|●|→シリアス
さわやか←|―|―|―|―|●|→じめじめ
物語重視←|―|―|●|―|―|→人物重視
台詞重視←|―|―|●|―|―|→表情重視
けんぜん←|―|―|―|●|―|→えちえち
現実主義←|●|―|―|―|―|→非現実的
特殊設定←|―|●|―|―|―|→王道設定

ヘヴィー度チェッカー

身体暴力……………………………あり
精神暴力……………………………あり
自傷行為……………………………なし
流血表現……………………………なし
内臓描写……………………………なし
近親相姦……………………………なし
モブ強姦……………………………なし
主役の死……………………………なし
リバ表現……………………………あり

はらだ『にいちゃん』 登場人物(キャラクター紹介)

『にいちゃん』に登場する主要人物は3人。主人公である「ゆい」、にいちゃんの「」、そして成長したゆいのガールフレンド「まいこ」です。BL漫画に登場する女性キャラが苦手という方も、彼女の存在には必然性を見出せるのではないでしょうか。

ゆい

「品行方正な優等生」を演じている高校生。幼少期の経験から世間一般とはズレた感覚を持つ。

#黒髪 #中背 #細身 #高校生 #トラウマ #品行方正 #執着 #二面性 #強気 #健気 #自己中心的 #マイペース #頑固

両親を心配させないよう
大衆に迎合する必要はあるのだろうか
あの子を傷つけてでも
愛を証明する必要はあるのだろうか
ゆれる

引用元:はらだ『にいちゃん』84ページ、プランタン出版、2017年

景(けい)

小学生のゆいが「にいちゃん」と呼び、慕っていた。ある”事件”をきっかけに疎遠になる。

#金髪 #長身 #細身 #髭 #トラウマ #外道 #鬼畜 #ヘタレ #暴力的 #不安定 #照れ屋 #人間不信 #諦観 #怠惰

…おまえも俺を
見下してんだろ
自分だけ、
平気な顔して、
世の中にとけこみやがって

引用元:はらだ『にいちゃん』96ページ、プランタン出版、2017年

舞子(まいこ)

「学校のアイドル」的存在の女生徒。ゆいと同じ高校に通っている。一見普通の女の子だが……。

#黒髪 #中背 #華奢 #女性 #高校生 #美人 #優秀 #二面性 #飄々 #肝が太い #打算的 #迎合 #レズビアン

私と同じで
必死に取り繕ってるように
思えたから声をかけた
ぶっちゃけ都合がよかったの

引用元:はらだ『にいちゃん』110ページ、プランタン出版、2017年
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はらだ『にいちゃん』 あらすじ

ここから先はネタバレを含みます。未読の方はご了承ください。

幼少期に歪んでしまった性愛と現在

親に買ってもらえないテレビゲームに釣られ、近所の「にいちゃん」と一緒に遊ぶようになったゆい。放課後、「にいちゃん」の家に行ってはゲームを遊ばせてもらう
その最中、匂いを嗅がれたりキスをされたりする。
幼いゆいは、純粋に「にいちゃん」を慕っていた。

ゆい
ゆい

オレ、

にいちゃんちの

子供になろうかなー

にいちゃん
にいちゃん

おお、

ここに住んじゃう?

ゆい
ゆい

住みたい!

にいちゃん

じゃあ今度アナルセックスさせて。

引用元:はらだ『にいちゃん』11ページ、プランタン出版、2017年

言葉巧みに誘導され、ゆいは服を脱ぐ。
しかし寸前で恐ろしくなり、逃げ出してしまった。

下半身を露わにしたまま走り、家へ帰ろうとするゆい。
にいちゃんが追いついたとき、そこにはゆいの母親がいた。
「死になさいよ 変態」
罵倒され、ひたすら謝りながら場を離れた。

家に帰ったゆいは、母親に対し何も話さない。
教えたら、にいちゃんが逮捕されてしまうとわかっていたからだ。
その間に、にいちゃんは町を離れていった

数年後──

ゆいの中で、にいちゃんの存在はますます大きくなっていく。
あのとき逃げ出さずにいれば、ずっと一緒にいられたのに。
後悔を抱きながら、にいちゃんの家の近くを徘徊する日々。

そんなある日、偶然にもふたりは再会する。

ゆいから誘惑されたにいちゃんは、部屋へと連れ込んだ。
今度は逃げられないように、写真を撮影して……。

酷い仕打ちを受けても、ゆいは一途に想い続ける。
にいちゃんは自分のことが好きでも何でもなく、
ただ性欲の吐け口にしているだけだと気づいていた。
それでも愛していた。

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「にいちゃん」が「にいちゃん」になった過去

郵便物から、にいちゃんの名前が「景」であることを知ったゆい。
名前を知ったことを悟られないように今まで通り「にいちゃん」と呼ぶが、一人でいるときは「景」と呼ぶようになった。

幼少期のころと同じように、放課後や土日に景と遊んでは学校では普通の高校生として過ごす。

成績優秀で品行方正なゆいに告白してきたのは、男子から人気の高い女子「舞子」だった。

よかったら私と つきあったり、してくれませんか?

にいちゃんにそのことを伝えても、興味をもってもらえない。
それどころか、「付き合ってみれば?」と言われてしまう。

にいちゃんだけを想い続け、舞子という「ふつう」に惹かれない。
それを証明するために交際を始めた。

異変が現れたのは、景のほうだった。
実家との折り合いがつかず衝突し、ゆいに当たり散らす。
セックスを強要し、その最中に舞子へ電話をかけさせた

今までの全てを知った舞子は、動じることなく味方してくれることになった。

舞子は、ゆいと同じように生きていた。
周囲と合わせて行動しているが、薄暗い部分のある人間だったのだ。

その薄暗い部分とは、父親が前科者であること。
幼い少年と愛し合い、写真に納めていた。
さらにその被害者は、景だった

舞子が生まれることになり、捨てられたのだ。
事情を知ったゆいは、愛を「証明」するために景の家へと訪れる。
スタンガンを使って動きを封じ、全て知ったことを打ち明けた。

ゆい
ゆい

捨てられちゃったんだね

そんなの悲しいよね…

今でも忘れられないの?

「おじさん」のこと

景

………

………は?

……ちがう

ちがうおれは…

ゆい
ゆい

にいちゃん

今からアンタを抱く

引用元:はらだ『にいちゃん』136-137ページ、プランタン出版、2017年

四肢を縛られたまま犯され、愛を「証明」された景。
満足気なゆいは、景の唇や指先にキスをして「明日もくるね 愛してる」と部屋を後にした。

翌日、景はゆいのインターフォンを無視
避けるようになってしまう。

ラストは…世間を気にしない2人だけの世界へ

ゆいは諦めずに何度も景の元を訪れるが、引越しのトラックが止まっているところに遭遇する。
引き留めようと縋るが、景は背中を向ける。

ゆい
ゆい

にいちゃんのこと許して理解できるのは

世界で、唯一

俺しかいないよ

引用元:はらだ『にいちゃん』169ページ、プランタン出版、2017年

後ろ姿へ訴えてみても、景は振り向かなかった。

実家から呼び戻された景は、「病気」を「矯正」されることになる。
見知らぬ女に身体を触られ、嘔吐しても繰り返されるのだ。

苦しみ続けるうちに、景は「おじさん」の現在が気になり始める。
自分を傷つけた人は、何をしているのだろう──

探偵事務所に調査を依頼し、居場所を突き止めた景は、おじさんに声をかけた。
ところが、まるで何も覚えていないように
「なにかご用ですか?」と他人行儀な笑顔を向けられてしまう。

絶望した景は実家と縁を切り、ゆいの元へと戻ってきた。

景

ゆい

おまえしかいないって

思い知った

ゆい
ゆい

証明

キスして、ここで

大丈夫

怖がらないで

人が見てる

大丈夫

俺だけ見て

引用元:はらだ『にいちゃん』201ページ、プランタン出版、2017年

年の離れた男同士が往来でキスをする姿に、周囲の人々がざわつき始める。
それすらも気にせず、ゆいは景の背中を撫でるのだった……。

真の結末!? 書き下ろしこそ必見の最後

幸せをつかんだはずなのに

引用元:はらだ『にいちゃん』225ページ、プランタン出版、2017年

晴れて結ばれたふたり。
景の新居に入り浸って幸せを感じる一方懸念することは増えてゆく。
薬とタバコに頼り始めた景。
未だ両親へ打ち明けられない関係。

夜道を歩くゆいのポケットには、薬とタバコが入っている。
すべて切り捨てると決めたはずなのに──

続きは本編で!
(一番重要なオチは描き下ろしの結末にあります)

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はらだ『にいちゃん』 感想と考察(作品レビュー)

 景(にいちゃん)はゆいにとって、永遠に攻略できないゲーム

 ゆいは人生の中で、色々な“ゲーム”を攻略しているんですよね。勉強、学友との付き合い、彼女、世間体、両親からの期待……。あらゆる難ゲーをクリアしてきました。すべての攻略法を見つけた中で、唯一攻略できないままソフトを奪われてしまったのが景という存在です。

 数年後、たまたま発見したものの、他人の上書きデータが気になってしまう。それでもなんとか進め、エンディングを迎えますが、トゥルーエンドは別にあると言われてゲーム続行……。

 ゲームに例えたのは、景とゆいを繋げたアイテムだからでもあります。最初に声をかけたのは景で、「うちにもっと おもしろいゲーム あるけど来る?」(引用元:はらだ『にいちゃん』146ページ、プランタン出版、2017年)でした。ここからふたりのゲームが始まっていたわけです。

 ゆいがにいちゃんに執着し続けたのも、ストックホルム症候群(=加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感を抱く事)のような感情というより、攻略できないキャラだからという印象。

 私の世代で言うと、ゲームボーイカラーの『ポケットモンスター金銀』に登場するスイクンが近いです。わりと強い伝説のポケモンで、そのくせ逃げてばっかりで全然捕まらないんですよ。
 最終的には血眼になって探すタイプの子と、本編に関わらないからスルーする子と、通信で他の人から分けてもらう子に分かれていました。ゆいは、血眼になって探すタイプの子。そして手に入れたらずっとパーティに入れておく子。

 でもスイクン捕まえても終わりじゃないんです。スイクンのほかに、ライコウとエンテイという似たようなキャラが残っていて、また追いかけるかどうするか、という選択肢が湧いてくるんですよ。
 ゆいはどうするのか…というところで終わっているのが本作『にいちゃん』です。スイクン(にいちゃん)捕まえてジムバッジ(愛の証明)で手懐けたけど、どうするのか。分からずに彷徨っている姿が印象的なラストシーン。

 ゆいが攻略できないのも無理はありません。「被害者」でしかないから。
 景も元は被害者でしたが、ゆいに手を出した事で加害者側になりました。舞子も、加害者側としての罪の意識を背負っています。「こんなこと誰にも話せないし すっっっっごくしんどかった」(引用元:はらだ『にいちゃん』132ページ、プランタン出版、2017年)と告げる苦しみは、被害者側には一生理解できないもの。

 この加害者側の苦しみについて「こいつ被害者ぶっててうけんだけど」(引用元:はらだ『にいちゃん』152ページ、プランタン出版、2017年)と切り捨てるのが「ふつう」の世の中なんですよね。かつての被害者であっても、加害者になった時点で世間から非難される。

 加害者側の感情へ寄り添ったゆいは「許して理解できるのは唯一俺だけ」と言っています。しかし被害者は「許す」ことや「同情」することはできても「理解」はできない。だからこそ、最後の書き下ろしのストーリーでは景との齟齬が見えてしまうのでしょう。
 被害者(=ゆい)から許され、受け入れられた加害者(=景)は夢みがちになっている。反対に、許した側の被害者は冷静に周囲を見渡している。

 周りばかり見ていた景がゆいだけを見始め、景だけを見ていたゆいが周りを見始めた。ここからどんどん乖離していくのでしょう。それでも「必ず互いの元へ戻ってくる」ということが作中を通して描かれています。絶対に続くことが分かるからこそ、苦しい。

 ゆいは全てを切り捨てて景と生きていく決心をしながらも、決定打を打たずに先延ばしにしています。ゆいの両親は「退屈」ではあっても「有害」ではないから。
 この部分も景・舞子と事情が異なりますね。ゆい母は景に「死になさいよ変態」と言ったり世間体を気にしたりしていますが、ゆいに何かを強要したわけでも、前科があるわけでもない。いたって「ふつう」の家庭。
 切り捨てるべき決定打が見えないものを切り捨てるのって難しいです。大事なのは景で、それは確かだけど、対価として家族との縁を支払えるかというと完全には割り切れない。救いようのないほど酷い親なら簡単に捨てられるけど、あまりに「ふつう」で嫌いにはなれない。そこも景と違って、理解し合えない要素のひとつ。結果、タバコや薬で誤魔化しながら「間違ってない」と言い聞かせなければ納得ができない。

 ゆいと景。不健康でありながら、離れられない関係。タバコや薬と同じですね。
 タバコについて「依存するよ」言われ、「平気だよ」と答えるゆい。今後の関係性を示唆しているように見えますね〜。闇〜!

 書き下ろしまで含めて一つの作品になっていると感じました。当時Cannaで連載を追っていたけど単行本は買わなかった、という方も、ぜひ単行本でご覧ください。

 色々考える作品ではあるのですが、個人的にはそこまで闇(病み)は深くないと思います。というのは、わりとフィクション性が強いから。上にある傾向チャートでは「現実に近い」にしていますが、ファンタジー要素(魔法や獣人、超金持ちなど)が出てこないというニュアンスです。本作は良い意味で自己投影できないので、客観的に見られます。読み終えてから、ため息はつくけど、さほど引きずられません。「怖いけど、よく話題になる作品だから読んでみたい」という方にも推奨します。

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今月のイチオシBL漫画

児島かつら
『とめどなく、シュガー』

就活の内定報告になじみの店へ顔を出した帰り道男同士の痴話喧嘩に遭遇した敬太。
スルーしようと思いつつも助けに入ると、絡まれていたのは苦手な大学の同級生・理一だった。
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お互いの悩みや失恋話、ゲイであることをぶちまけ合う中’励まし合い’としてセックスをする敬太と理一。
帰り際、次に会うのは卒業式かと話すついでのように理一から好きだったことを伝えられる。

理一のことが頭から離れないまま、大学最後の日を迎え、敬太から逃げるように立ち去ろうとする理一を捕まえるが告げられたのは改めての告白と決別の言葉で――?

はらだ『にいちゃん』 ドラマCD(キャスト声優)

本作はドラマCD化されています。

販売されていたのが2017年のため、現在はパッケージでの入手が困難です。中古品でもなかなか出回っていません。「DLsite」でデータ版が販売されています。

声優

ゆい:斉藤壮馬
景:加藤将之
舞子:竹内恵美子
ゆい幼少期:相川奈都姫
景幼少期:川上彩
おじさん:橘潤二
ゆい父:松田修平
景父:陣谷遥
景母:清水はる香

試聴

DLsite版は「おまけキャストコメント」つき!

はらだ『にいちゃん』 全体のまとめ

以上、はらだ先生のBLコミック『にいちゃん』の紹介でした。
あらためて全体をおさらいすると、こんな作品です。

『にいちゃん』は…
  • 児童ポルノ禁止法に関わる題材
  • 「ふつう」とは何かを問うテーマ
  • 共依存系のメリーバッドエンド
  • 書き下ろしも含めて1つの作品(単行本推奨)
  • 斉藤壮馬さんと加藤将之さんが共演したドラマCDも話題
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