クズだけど好きな人【BLマンガ感想】どつみつこ『Cutting Age』レビュー

本日のオススメBLコミック

タイトルCutting Age
作者どつみつこ
巻数1巻
連載状況完結済
レーベルHertZ&CRAFT / ihr HertZ
出版社大洋図書
紙の本発売日2016年6月1日
電子書籍発売日2016年6月1日

初めての
セックスは
好きなひとと
その彼女との
3Pでした

俺の好きな八木さんという人はすっごいクズだ。
女にだらしなく、いいかげんで、調子がよく、そもそも好きになったきっかけも酔った八木さんにノリでキスされたせいだった。
ゲイだと言えず、孤独に死ぬしかないと思っていた俺にはそれだけで十分だったのだ。
それなのに、八木さんに元カノとのセックスに誘われ、エッチな八木さんが見たいばかりに誘いにのったものの……!?

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攻め:佐々木樹生(ささき・みきお)

#黒髪 #長髪 #細身 #顔がいい #20歳 #大学生 #バーテンダー #ゲイ #童貞 #ワンコ #一途 #ヘタレ #真面目

俺はあなたよりもっと八木さんを知らないけど
浅かろうが深かろうが
人を惹き付ける魅力がある八木さんはすげーし
俺にはまぶしく見えます

引用元:どつみつこ『Cutting Age』48ページ、大洋図書、2016年

…俺はもう自分から逃げるのが嫌になっちゃったんで
八木さんのこと諦めませんから
だから八木さん
俺のことは安心して好きになってくれて大丈夫っスよ

引用元:どつみつこ『Cutting Age』100ページ、大洋図書、2016年

受け:八木智明(やぎ・ともあき)

#金髪 #ツーブロック #細身 #歳 #バーテンダー #ノンケ #ヤリチン #飽き性 #節操なし #俺様 #強引 #愛嬌

“まて”? 
こんなガチガチになっといてまだ待てが欲しいのか? 
さすがバカ犬だな

引用元:どつみつこ『Cutting Age』137-138ページ、大洋図書、2016年

恋人に甘えなくて
誰に甘えんだよ

引用元:どつみつこ『Cutting Age』205ページ、大洋図書、2016年
『Cutting Age』を読む

作品の雰囲気が分かるチャート

コミカル←|―|―|―|●|―|→シリアス
さわやか←|―|―|●|―|―|→じめじめ
物語重視←|―|●|―|―|―|→人物重視
台詞重視←|―|―|●|―|―|→表情重視
けんぜん←|―|―|●|―|―|→えちえち
現実主義←|―|●|―|―|―|→非現実的
特殊設定←|―|―|―|●|―|→王道設定
攻の良さ←|―|―|●|―|―|→受の良さ

一言コメント

基本的にはシリアスで、ときどき顔芸にクスッと笑う、緩急のついた内容です。クズな受けではありつつも、貞操観念がユルかったり好意を弄ぶだけで、ジメジメした犯罪要素はナシ。夢に向かってがんばる若者たちの青春ヒューマンドラマもあり、じんわりと沁みる読後感。

怖いものチェック

身体暴力……………………………あり
精神暴力……………………………あり
自傷行為……………………………なし
流血表現……………………………なし
内臓描写……………………………なし
近親相姦……………………………なし
モブ強姦……………………………なし
主役の死……………………………なし
リバ表現……………………………なし
ホラー系……………………………なし

一言コメント

今までクズとして行ってきたことへの報復ビンタや悪夢による暴力なので、「身体暴力あり」「精神暴力あり」となっていますが、さほどエグい描写はありません。クズはクズでも下半身ガバガバ系のクズなだけで、誰かに対して加虐するようなシーンはゼロです。

『Cutting Age』を読む

感想レビュー

ここから先は、作品の具体的なネタバレを含んだ感想を書いています。
未読の方で気になる方は読後にご覧ください。

クズ受けの泣き顔と赤面is最高

シンプルな見どころはコレですね! 
189ページが視覚的に美味でございます。飄々としたクズが見せる泣き顔、好き。
その後の赤面も最高です。おいしい! 受けミシュランガイド星3つです!!!! 

さらに良いのは、赤面を隠そうとする手を恋人つなぎで組み敷いて「かわいい」を連呼する攻め。テッパンな上に、表情がとても唆る。赤面好き+泣き顔好きな方にこそ読んでいただきたいです。

リカとミドリという女・樹生という男

BLにしてはめずらしく、受けの彼女が2人登場します。最初に攻めと3Pする「リカ」と、その後に付き合った「ミドリ」。タイプの違う女性ではありつつも、「こういうクズと付き合いそうな人」という点では妙に納得できます。

リカは、考えるよりも先に身体が動く若者。美容系の専門学校に通っている、20代前半の女の子です。良くも悪くも素直でノリがいい。たぶん「きっと楽しいよ」と誘われたらノッてきちゃう、クズに都合の良い女。3Pに至るまでの経緯は描かれていないけれど、なんとなく言いくるめられたのが容易に想像ができてしまう。彼氏がクズなことに気づきながらも、顔とエッチはいいから別れるのももったいないと付き合い続けていました。しかし、ふと目が覚めて別れます。

ミドリは、物語にあまり登場しません。八木(受け)から「ミドリさん」と言われているところや、閉店間際に来て一緒に帰ろうとするところなどから、打算的な年上女性のようです。おそらく「エッチが上手な年下のイケメンバーテンダーと付き合っている」そんなステータスほしさでの交際に見えます。なので八木が悩んでいても「あとで聞く」とパンケーキ優先。

そんな2人の女性に対し、樹生(攻め)はピュア。キスされたことがキッカケで気になってしまって、クズだと分かっていても嫌いになれない。クズからすると好きになられたら一番めんどうな人間。上辺だけで付き合ってくれそうにないし、諦めも悪い。だからこそ、最後までついてきてくれるし困ったときにも真っ先に駆けつけてくれる。

クズと付き合うタイプ3種って感じで面白かったですね。最終的に樹生が本命になる説得力もありました。

タイトルの意味を知ってから読み直すとさらにエモい

読み終わったあと、タイトルの『Cutting Age』って何だったんだろう? と気になった方もいるんじゃないでしょうか。髪を切ることがストーリーとして関わってくるので、「Cut」だったらシンプルで分かりやすい。けれど、「Cutting Age」だと「切るときの年齢」「切る頃合い」など色んな意味がありそうですよね。
調べてみたところ、農業用語では「伐期齢」という意味があるのだそう。専門用語のせいか、今ひとつピンときません。説明文を見てみると次のように書いてありました。

「伐期」とは、林木が生産目的を完全に満たした状態に達した時期のことです。したがって、それが実際にいつになるかは、将来のその時期に近づかないとわかりません。これでは経営の計画が立てられないので、予測的に主伐林齢を設定します。これが「伐期齢」です。

引用元: 森づくりの理念と森林施業 – 林野庁(https://www.rinya.maff.go.jp/j/ken_sidou/forester/pdf/02_28_2bu.pdf)

これを踏まえた上で、樹生(攻め)の髪の長さを見ると……エモいんです。

まず「目的を完全に満たした状態に達した時期」を樹生に当てはめた場合、「八木から「好き」を真剣に受け止めてもらえる時期」だと仮定します。

人を好きになることが怖くて逃げ回ってるような人に 
俺の「好き」をテキトーに扱われる筋合いはねーっスよ

引用元:どつみつこ『Cutting Age』96ページ、大洋図書、2016年

この樹生のセリフを皮切りに、怒涛のアプローチ(失敗含む)が始まるからです。絶対に諦めないこと、信じてほしいこと、ずっと近くにいることを何度も一生懸命伝える。でも八木は「好き」を利用するだけの状態が続きます。思わせぶりな態度を取ったり、つかず離れずの状態で近くにいたり。樹生の髪は伸びたまま、関係もズルズルと続いていく。

そんな樹生が、髪を切った姿で最初に登場するのは178ページ。
独立資金を盗まれて消沈する八木(受け)の元へ向かうシーンです。誰もが八木を突き放した中、樹生だけが駆けつけてくれた場面。このときの八木は、誰でもいいから温もりがほしくて、セックスをしようとヤケになっています。それを嗜めて帰ろうとしたとき、泣きじゃくる八木を見つけてしまう。飄々としていた彼がようやく見せた素顔です。ずっと素で接してきたワンコな樹生に対し、秘密主義だった八木。互いに晒しあってから、初めて身体を重ねたふたり。このときの樹生は、髪が短い状態でした。

描き下ろしの「Another Cut」では、恋人になってからのふたりが描かれています。会話の中で、八木の貞操観念のなさが再び出現。恋人がいても平気でナンパしてしまう性分です。クズはそう簡単には治りません。このときの樹生の髪を見てみると、すこし伸びている様子。

きっとこれから樹生は「伐期齢」(=目的を満たすであろう時期)を何度も迎えるのでしょう。そのたびに髪を切る。そして再び伸びて、目的がまだ満たされていないことを知る。八木のクズっぷりに振り回されながら、ひたすら一途に追いかける。これを繰り返した結果、ようやく「伐期」(=目的を完全に満たす時期)を迎えるんだろうなと思うと、尊くてたまりません。森林って急にできるわけじゃないもんな……。時間をかけて切ったり間引いたり育てたりを繰り返して強固なものになるんだもんな……。ふたりの関係もそうなんだ……。そんな風に妄想しながら読むのもオススメです。

『Cutting Age』を読む