【アメリカ映画】ガス・ヴァン・サント『マイ・プライベート・アイダホ』感想レビュー

1991年の名作ロードムービー「マイ・プライベート・アイダホ」。

『グッド・ウィル・ハンティング』のガス・ヴァン・サント監督がメガホンを取り、リヴァー・フェニックスキアヌ・リーヴスの瑞々しくも艶めかしい姿をシュールなユーモアたっぷりに映した1本です。多くのBL作家・ブロマンス作家が影響を受けており、オマージュのシーンが盛り込まれた漫画も複数存在します。

美しい風景を眺めるもよし、エディプスコンプレックスなど難解なテーマを考察してもよし、
ガス・ヴァン・サント監督ならではの撮り方に注目してもよし、そんな風に色々な見方ができるのも魅力です。

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「マイ・プライベート・アイダホ」 監督・脚本・出演者

監督/脚本

ガス・ヴァン・サント
(『グッド・ウィル・ハンティング』『ミルク』)

主演

リヴァー・フェニックス
キアヌ・リーヴス

配給

日本ヘラルド

「マイ・プライベート・アイダホ」 あらすじ

ストリート・キッドのマイクは、男娼として街角に立ち、少年を好む中年男性を相手に
体を売って日銭を稼ぐ日々を送っている。ある夜、マイクは記憶の中の母親に似ている女性客を前に持病の睡眠発作を起こしてしまう。

眠り続ける彼を助けたのは男娼仲間のスコットだった。彼は市長の息子であり、何不自由なく育ちながらも、見せかけだけの家庭に嫌気がさし、家を飛び出していた。

ある日、マイクは行方不明の母親を探す決心をし、スコットと共に、兄リチャードが暮らす
故郷のアイダホへバイクで向かう。

マイクが旅の途中で告げたスコットへの想い、兄リチャードの衝撃的な告白。

やがてマイクとスコットの道は二つに別れていく…。

愛と友情、それぞれのアイデンティティーを求めて旅したボートランド、アイダホ、ローマ、
彼らが旅の果てに見たものは──。

「マイ・プライベート・アイダホ」 作品の雰囲気

コミカル←|―|―|―|●|―|→シリアス
演技重視←|―|―|―|●|―|→見目重視
台詞重視←|―|―|●|―|―|→画図重視
けんぜん←|―|―|●|―|―|→えちえち
さわやか←|―|―|―|●|―|→じめじめ
現実主義←|―|●|―|―|―|→非現実的
特殊設定←|―|―|●|―|―|→王道設定
攻の良さ←|―|―|●|―|―|→受の良さ

「マイ・プライベート・アイダホ」 登場人物

メインの2人について紹介します。

スコット

#茶髪 #長身 #細身 #21歳 #市長父 #エリート #したたか #父嫌い

「親父は金の上にあぐらをかいてる最低の野郎さ」
「眠ってるお前の体を売ったとでも? 友達のお前を?」
「皆の前で真相を暴かれて恥ずかしくないのか」

出典:ガス・ヴァン・サント『マイ・プライベート・アイダホ』(日本ヘラルド、1991年)

マイク

#金髪 #中背 #細身 #ナルコレプシー #ストリートキッド #トラウマ母 #男娼 #やんちゃ #単純

「あんたの言い訳を聞きたいね」
「おれだって 普通の家庭で育っていたら きっと まともな若者になってた」
「おれは金をもらわなくても愛することができる──お前が好きだ」

出典:ガス・ヴァン・サント『マイ・プライベート・アイダホ』(日本ヘラルド、1991年)

キャラクター比較

年齢:スコット > マイク
身長:スコット > マイク
体格:スコット = マイク
階級:スコット > マイク
立場:スコット = マイク

「マイ・プライベート・アイダホ」 ざっくり起承転結

かなりザックリではありますが、ネタバレを含むのでご了承ください。

ストリートキッドのマイクは路上に立ち、男娼として生活をしている。
彼は「ナルコレプシー」という病を抱えていた。ストレスを覚えると強い眠気に襲われ、倒れるようにして眠ってしまうのだ。これが原因で、路上に寝てしまうこともあれば、客の前で倒れることもある。そんなマイクを介抱してくれる男娼仲間・スコット。彼は年上で、兄貴分のような存在だ。

実はスコットは「市長の息子」であり、エリート一家の血を引いている。その彼が、スラム街へ日々訪れては男娼として金を稼いでいるのには理由があった。金のことばかり考える強欲な父や、肩書きばかりを気にする周囲に嫌気がさしていた。そこへ声をかけ、スラム街へと招き入れてくれたのが初老の男・ボブだ。スコットは、ボブのことを第二の父のように慕っている。一方で、スコットは21歳を迎えたらスラム街の人々とは縁を切るつもりでいた。

ある日、マイクは自分を捨てた母親を探す旅に出ることを決意。すると、スコットと共に行くことになった。二人でバイクへ跨がり、まずは兄であるリチャード(愛称:ディック)の元へと向かう。母の現在地にまつわるヒントを持っていると思ったからだ。

旅の道中、マイクはスコットに告白する。しかし、友達であり続けることになる。スコットはマイクを可愛がってはいるが、恋愛対象ではなかったのだ。

その後、無事に兄の家を訪れた2人。母親はイタリアにいるという情報と共に、もう一つ重大なことを知る。兄だと思っていたリチャードは、マイクの父だったのだ。厳密には、兄であり父でもある。母は息子・リチャードとの間にマイクを授かったのだ。衝撃の真実を知り戸惑うマイクだったが、母親を探す旅を続けた。

紆余曲折ありながらも、イタリアへ到着したマイクとスコット。母親の情報を求めて訪れた宿泊先で、スコットはイタリア美女と恋に落ちる。マイクが情報を集める中、スコットは美女と仲を深めてゆく。母親が一向に見つからないまま、スコットは婚約。母を探すマイクを残してアメリカへと帰った

結局、母親は見つからなかった。
アメリカのスラム街へ帰ってきたマイク。相変わらず男娼として過ごす彼とは対照的に、スコットは父親の後継者として華麗な生活をしていた。美人の婚約者とパーティに出席し、周りに迎合する。ジャケットとデニムではなく、高そうなスーツに身を包み、笑顔で世辞に応じる。もはやマイクの手が届かない存在だ。

煌びやかなスコットへ、無遠慮にも近くのはボブだった。
スラム街の自由で粗野な生活か、政治界の上流で暮らすか。スコットの選んだ道とは──

続きは本編をご覧ください!

「マイ・プライベート・アイダホ」 ネタバレ考察

ここから先はネタバレ

未視聴の方はご注意ください。
色々な考察ができるのも作品の魅力なので、
先入観なしで観ることを推奨します。

マイクとスラム街を捨てたスコットに、諸行無常を感じるエンディング。
はたして本当にそうだろうか?と思う部分があります。
それはなぜか、という考察と解説です。

資料1:スラム街にいた頃のスコットの言葉

みんなは俺が親父を超えることを期待している 
親父以上の金と権力を持つことを 最低さ

ガス・ヴァン・サント「マイ・プライベート・アイダホ」より

両親はおれの変身に腰を抜かす 真面目な息子より 
グレた息子が戻る方が親は喜ぶのさ
誰もそれを予期してない時に変身して アッと言わせてやる
親父の首をはねるのは  あんたの役目だ ボブ

ガス・ヴァン・サント「マイ・プライベート・アイダホ」より

資料2:エリート化したスコットの言動

  1. 政治家から「いずれは政界へ?」と聞かれ、あやふやに目線をそらす
  2. ボブに対し「以前の僕に戻る日まで近づくな」と言う。

疑問:スコットの言動の不自然さ

エリート化したスコットの言動が不自然だと感じます。
完全に縁を切ってエリート街道を進むつもりなら、

  1. 「いずれは政界へ?」に対し「まだ分かりませんが、そうなることを願います」などの回答をするのではないか。
  2. 「以前の僕に戻る日まで近づくな」ではなく「二度と近づくな」と釘をさすのではないか。

このような疑問が浮かびます。マイクとスラム街から完全に縁を切るのであれば、上のような返答をするのが自然ではないでしょうか。とくに2つめの「以前の僕に戻る日まで」は意味深です。

仮説:スコットは25歳で再びスラム街へ戻るつもりである

政界に入らないことを示唆する動作、「以前の僕に戻る日まで」という言葉から、いずれは戻るつもりなのではないかと考えます。

また、クライマックスのシーンで神父が「この世の富を追うなかれ」という聖書の引用をしています。かなり皮肉じみているシーン。スコットの父は、富ばかり追っていた人物だからです。前々からその姿に嫌気がさしていたスコットという図もあり、「富を追わない」選択をするとも考えられます。

マイクの最後のセリフ「この道は──どこまでも続く。たぶん世界をぐるっと回っているのだ」。これはマイクだけに当てはまるものではないということは、作品を通じて伝わってきます。つまり、スコットにも該当するのです。

25歳という数字はどこから出てきたのか。それはアメリカという土地が背景にあります。
アメリカでの成人年齢は21歳(州によって微妙に異なりますが、アイダホ州では21歳)。スコットはこの時期に“変身”して戻ってきました。この後、政界の道へ進むとなった場合、連邦下院議員として候補者になる条件は25歳以上。さらに、スコットの父が生きていた場合、選挙の時期と重なり合います。その時期にスラム街へ戻った場合、スコットは「若気の至り」では済まされない年齢。父や自分に群がってくる金目的の連中を破滅させるには、充分な環境が整うのがこの時期です。これこそスコットが求めていた「親父の首をはねる」ではないでしょうか。

まとめ

  1. 「誰もそれを予期してない時に変身してアッと言わせる」
  2. 「親父の首をはねるのは あんたの役目だ ボブ」
  3. 「以前の僕に戻る日まで近づくな」
  4. 「この世の富を追うなかれ」
  5. 「世界をぐるっと回る」

これら5つの言葉から、スコットはこの後スラム街へ戻るつもりだったのではないかと考えました。なぜスラム街へ戻るかと言うと、やはり父への復讐だと考えられます。

グレた息子が戻って来た上に、イタリア語・英語両方とも話せる賢い異国の美女をフィアンセに連れてきた。これにより、盛大な「変身」に喜んだ親に対し、再び「変身」する(=ボブの元へ戻る)ことで最大限の復讐をする(=首をはねる)つもりだったのではないでしょうか。

ただ、スコットの父もボブも同時期に急逝するアクシデントが発生しています。復讐相手もいなくなり、ボブという第二の父を失ったスコットは、果たして本当に戻るのか……。視聴者の受け取り方次第ですね。

「スコット戻る気だった説」はあくまで私の仮説です。色々な見方ができる作品です! ぜひ一度ご覧ください。

予告映像(トレーラー)

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