タイトル | 僕らのミクロな終末 |
作者名 | 丸木戸マキ |
出版社 | 祥伝社 |
連載状況 | 上下巻完結 |
あと10日で、巨大隕石が地球に落下する。
限界人生を送る社畜サラリーマンの真澄は、せめて残された時間を穏やかに過ごしたいと母校の大学図書館を訪れる。
そこで10年ぶりに偶然再会した男・律は、かつて真澄を裏切り傷つけ、いまの底辺生活の元凶となった
「この世で一番会いたくない昔の男」だった…。
丸木戸マキ「僕らのミクロな終末」 第1話 あらすじ
攻め:日下部律(めがね/泣きボクロ/金髪/たばこ/社長/カリスマ/億万長者)
受け:仁科真澄(黒髪/オタク/陰キャ/不幸体質/毒親/借金/地方出身)
20XX年5月11日午前8時。
「あと10日ほどのうちに98.9%の確率で隕石が落下し、地球が滅亡する」
テレビの報道はその情報と各国の代表による会見で埋め尽くされていた。
あまりに信じがたい出来事だが、どうやら本当らしい。
仁科はこれまでの人生に思いを馳せる。
大人になってから、不運続きの日々だった。
就活の時期に世界恐慌。
初めて入社した企業はブラックで体を壊し退社。
奨学金の返済と母親の借金を返すことにいっぱいで、プライベートを充実させる暇はなかった。
結果、今のような最後の瞬間、連絡できるような相手がいない。
周りの友人は結婚していたり、薄い付き合いだったりで、気が引けてしまう。
そのまま引きこもってゲームをすることにした。
会社へ行く必要もなくなり、外へ行けば人々が混乱していそうだったからだ。
しかしサーバーを運営していた人々も去り、やがて何もできなくなった。
世界最後の日まであと9日。
仁科は、最後にやり残したことはないかと考える。
静かなところで本が読みたい。暴動に巻き込まれたくない。
そうして選んだのが、自宅から歩いて15分で行ける母校の大学図書館だった。
思えば、大学時代は一番輝いていた。
「あのとき」までは。
輝かしい思い出と苦々しい記憶を回想しながら図書館に辿り着く。
意外にも多くの利用者がいた。
館内を歩き回り、なつかしい雰囲気を味わう。
前から読みたかった本を手に取り、読んでいる途中に声をかけられる。
「真澄?」
「……律」
それは仁科が「この世で一番会いたくない」人物である、日下部律だった。
無邪気に再会を喜ぶ日下部とは対照的に、仁科の顔は青ざめていく。
かつてのサークル仲間だが、仁科とは真逆の人生を歩んでいた。
在学中から起業して20代で億万長者になり、美形すぎる社長・作家としてメディアに引っ張りだこ。
つい先月には女優とスキャンダルになり、動画投稿で若者からの支持も厚い。
しかし、仁科が会いたくなかったのは嫉妬からではない。
ある出来事をきっかけに、友達だと思うことができなくなったからだ。
仁科の想いを知ってか知らずか、日下部は飄々とした態度で「話したい」と外へ連れ出す。
俺と一緒にいない?
引用元:丸木戸マキ『僕らのミクロな終末』上巻(33ページ、祥伝社、2022年)
地球の最後の日まで
即答で断る仁科。
あんな仕打ちをした相手と最後の時まで共に過ごすなど考えられない。
ところが、当の日下部は例の出来事を「時効」と捉えていた。
その出来事とは──
続きは 本編 をご覧ください!
丸木戸マキ『僕らのミクロな終末』 感想レビュー
ここからは個人の感想です。
上巻のみの感想に留めておりますが、ご注意ください。
ストーリーの感想
いつ読んだかで感じ方がが変わりそうです。
雑誌で第1話が掲載されたのは2020年2月25日。コロナによる緊急事態宣言が初めて出される少し前のことです。そしてコミックスが発売されたのは2022年2月25日。ウクライナ戦争が始まった直後。さらに現在2022年11月中旬、Twitter閉鎖するかも騒動。
主人公(仁科/受け)が世界滅亡が現実であると認識するツールがTwitterなんですよね。当時だったらここもリアリティある始まりだったと思うんですが、今読むと「このころにTwitterは生き残っているのだろうか」とか考えてしまいました。変なところに引っかかってしまうTwitter民なのであった。
それはさておき。「世界が終わるとき、誰と何して過ごす?」がストーリーの軸となっている群像劇です。セカイ系ではないです。二人が世界の破滅を止めるような物語ではありません。
BLなのでメインは2人でありつつ、他者との関わりも濃密に描かれます。どこかジメッとしていて、少し狂気のある言動も魅力。モブキャラの行動がかなりリアルで凹む部分もあるので、メンタルが良好なときに読むことを推奨いたします。
イラストの感想
丸木戸マキ先生は何描いてもエロスがありますね。日常シーンなのに色気がある。ゲッソリしている仁科も、ただ会話している日下部も、どこか品のある色気が漏れ出ています。そのため、直接的な描写がなくても読者は滾りまくりです。修正が必要のない角度ばかりなのに、あふれ出るエロス。魅力たっぷり。
また、今作は「世界が終わるとき」「会いたくない人物に会う」を描いているためネガティブな表情が多く登場します。どれも鬼気迫る顔で、思わず息を飲むものも……!
登場人物(攻めキャラ)の感想
なかなかのナチュラルクズでした。呼吸するように股をかけ、責められても悪びれず「許容できないなら離れよう」「これが男の本能だから」というスタンス。でもエッチしているときだけは最高に優しいから、ズブズブにハマってしまう子が続出。ついたあだ名は「KOC(キング・オブ・サークルクラッシャー)」。
社会人になってからは「イケメンのやり手社長兼作家で動画配信も大人気」という設定。炎上しないのが不思議です。泣き寝入りしそうな相手の選定や、周囲への火消しも上手かったんでしょうね。
その後に「金持ちの愛人の息子だった」設定が出てきて、性に対する意識のルーツが見えてきます。さらに「成功者であるはずの彼が、自死を企てていた」という事情も出てきます。正直なところ、加害者の不幸語りからの同情を誘うムーブは苦手なので下巻そうならないでほしいなぁ。自分の不幸に他人を巻き込んではいけないぞと思ってしまうからです。クズなら徹底的にクズで、悪びれないほうが好みなんです。微妙な優しさとか見せられても同情できない。そう、私もクズだからです。そんな感じで、好感度は今ひとつあがらないまま上巻が終了しました。
登場人物(受けキャラ)の感想
見ていてキュッとくるリアリティのあるキャラクター。世界恐慌での就活氷河期、毒親による借金と返済、初めての彼氏に複数股かけられる。苦しいときに連絡できる相手もいない。外から見たら縁を切ってもいいと言われる相手でも情で付き合ってあげる哀しい優しさ。悲しいことにどこか聞き覚えがあるエピソードです。世界が終わるって知った日にスマホゲーで鬼課金するところとかもリアル。不憫受けというジャンルの中でもかなり現実味をおびた人物ですね。
一方で、12時間耐久セックスしたり乳首開発されて悦んだり出会い系でバックバージンを捨てたりというどスケベさも持っています。意外と心のツッコミの切れ味が鋭い一面もありますね。学生時代は「マルチ勧誘への潜入レポート」みたいなものも書いていました。この時折見せるアッパーでユニークな一面が物語の緩和剤ともなっています。こういった部分がなかったら、かなり重苦しくて読む人を選んだのではないでしょうか。上巻読み終えたあと、仁科視点で進んでいく話で本当に良かったなーと感じました。鬱屈さと軽やかさのバランスが絶妙です。
シチュエーションの感想
ザ・理想的な大学生BLがあります。回想シーンの12時間耐久セックス(また言ってる)、好きですね。正常位、騎乗位、後背位で激しくするところもエロいんですが、終わったあとに水を口移しで飲み合うシーンの色気! そしてバックハグでのあまあまいちゃいちゃ。極上のフルコースでございました。
エロ以外でいうと、世界が終わろうとしているときに自転車で遠出するロードムービー的なシチュエーションがエモいですね。目的が「誰かを家に送り届ける」なのも郷愁を煽る。物語としてのシチュエーション、エロのシチュエーション、どちらも最高の上巻でした。
丸木戸マキ『僕らのミクロな終末』 単行本の情報まとめ
本作は上下巻完結の作品です。
上巻
あと10日で、巨大隕石が地球に落下する。
限界人生を送る社畜サラリーマンの真澄は、せめて残された時間を穏やかに過ごしたいと母校の大学図書館を訪れる。
そこで10年ぶりに偶然再会した男・律は、かつて真澄を裏切り傷つけ、いまの底辺生活の元凶となった
「この世で一番会いたくない昔の男」だった…。
律はそんな真澄に、楽に死ねる薬を渡す代わりに死体処理を手伝ってほしいと、とんでもない話を持ちかけてくるがーー?
下巻
奇跡的に生き返った(?)高校生・遊馬を浜松に送り届けるため、東京を発った一行。
道中、人生勝ち組に見えていた律が自殺を考えていたと知った真澄は、しだいに律を放っておけなくなってゆく。
そしてある夜、真澄が大怪我を負って死にかけると律は激しく取り乱し、らしくない言葉を告げた。「…ずっとお前に会いたかった…
謝りたかった。もしやり直せたら 次はーー」明日がないから伝えられる、律の臆病な本心を聞いた真澄は…
はたして、世界は本当に終わってしまうのか?
もどかしくも愛おしい、不器用たちの終末ラブストーリー、完結。
丸木戸マキ『僕らのミクロな終末』 上下巻レビュー
作品の雰囲気が分かるチャート
コミカル←|―|―|―|―|●|→シリアス
さわやか←|―|―|―|●|―|→じめじめ
物語重視←|―|●|―|―|―|→人物重視
台詞重視←|―|―|●|―|―|→表情重視
けんぜん←|―|―|●|―|―|→えちえち
現実主義←|―|―|―|●|―|→非現実的
特殊設定←|―|●|―|―|―|→王道設定
攻の良さ←|―|―|●|―|―|→受の良さ
怖いものチェックリスト
精神暴力……………………………◯
身体暴力……………………………◯
自傷行為……………………………◯
流血表現……………………………◯
内臓描写……………………………×
近親相姦……………………………×
モブ強姦……………………………×
主役の死……………………………△
ホラー系……………………………×
リアル虫……………………………×
リバ表現……………………………×
修正について
全体的に見えない角度からの構図でした。
エンディングについて
オープンエンドです。
描き下ろしについて
上巻:なし
下巻:番外編「Epilogue」1ページ
電子書籍限定特典について
上巻:なし
下巻:紙/電子共通特典ペーパー1ページ
丸木戸マキ『僕らのミクロな終末』 実写ドラマ化情報
2023年1月テレビドラマ化!
監督・脚本・音楽・プロデューサーなど
『ポルノグラファー』チームで作るようです。
出演者(キャスト)
仁科真澄:瀬戸利樹(『先輩、断じて恋では!』金田優希)
日下部律:中田圭祐
監督
三木康一郎(『ポルノグラファー』『絶対BLになる世界VS絶対BLになりたくない男』)
森裕史
三木監督・森助監督の作品:実写版『弱虫ペダル』(映画)『10万分の1』(映画)
脚本
三木康一郎
音楽
小山絵里奈(『ポルノグラファー』)
企画・プロデュース
清水一幸(『ポルノグラファー』)
放送開始日
2023年1月〜
(2022年11月現在、日時の情報は出ていません)