本日ご紹介するのは、らくたしょうこ先生の新作『レンタルタマちゃん』。2023年5月1日(電子書籍は5月3日〜)に発売されたばかりのコミックです(2023年5月5日現在)。不穏な帯のキャッチコピー……いったい2人はどうなってしまうのか!? 気になる作品の考察とレビューをしていきます。
らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』 作品紹介(レーベル・作品の雰囲気)
ありがとう いい夢見れた
朽ちる町。変化はやってくる。
日々寄せられる住民の不満に疲弊する町役場の役人・矢澤は、癒やしを求めて「ねこレンタル」を利用することにした。
サービスに来たのは猫耳しっぽをつけた人間の“タマ”だった。
人間とわかっているのに、タマと過ごす時間は矢澤にとってかけがえのないものになっていく。
なぜ傷だらけの身体で、なぜこの仕事をしているのか?
本当のタマのことは何も知らなくて……愛しいと、最期に思える存在。あなたにはありますか?
らくたしょうこ
デビューコミックスは『僕らは嘘に気づかない』(リブレ、2017年)。最新コミックスは『レンタルタマちゃん』。現在連載中の作品は『先生と、ずっと』。
作品の雰囲気
コミカル←|―|―|―|●|―|→シリアス
さわやか←|―|―|―|●|―|→じめじめ
物語重視←|―|●|―|―|―|→人物重視
台詞重視←|―|―|―|―|●|→表情重視
けんぜん←|●|―|―|―|―|→えちえち
現実主義←|―|―|―|●|―|→非現実的
特殊設定←|―|●|―|―|―|→王道設定
ヘヴィー度チェック
身体暴力、精神暴力、自傷行為、流血表現、内臓描写、近親相姦、モブ強姦、モブ和姦、主役の死、リバ表現、の10項目です。ネタバレにつながるため、以下の「確認する」をタップまたはクリックしてご覧ください。
身体暴力……………………………あり
精神暴力……………………………あり
自傷行為……………………………なし
流血表現……………………………あり
内臓描写……………………………なし
近親相姦……………………………なし
モブ強姦……………………………あり
モブ和姦……………………………あり
主役の死……………………………あり
リバ表現……………………………なし
受けキャラの過去・現在ともにバイオレンス色強めです。
らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』 登場人物(キャラクター紹介)
メインCPの2人の属性はこんな感じでした!
二人の絡みはないのですが、作中の文脈的に攻め・受けはわりと明確です。
【攻め】矢澤啓介(やざわ・けいすけ)
廃れゆく役場で働く公務員。責任感があり、面倒見が良い。
#黒髪 #長身 #三白眼 #公務員 #真面目 #お人好し #兄貴肌 #責任感 #策士 #サバイバー
つらそうだったから
引用元:らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』147ページ、大洋図書、2023年
俺は やりたいようにやった
迷惑だったらすまんけど まあ…諦めてくれ
【受け】珠井青(たまい・あお)
「ねこレンタル」で「タマ」として働いているが…?
#金髪 #華奢 #美形 #風俗 #健気 #強気 #不思議 #衝動的 #サバイバー
にゃあ!
引用元:らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』16ページ、大洋図書、2023年
らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』 あらすじ
…え…!? 猫レンタルって…
引用元:らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』16ページ、大洋図書、2023年
どう見ても人間じゃねーか!
廃れゆく町の中で見つけた癒し「猫レンタル」
社会保障制度を手放した後の日本。
元々財源の少なかった地方の役所は大きな影響を受けていた。
そこで働く矢澤は、日々住民たちの怒りや不安に対処している。
ストレスもある中、目に止まったのは「猫レンタル」のチラシ。
さっそく連絡をして「タマ」を指名した。
部屋を片付け、猫に快適な空間を用意して、あとは待つのみ。
ところが、やって来たのは猫耳と尻尾をつけた……人間!
戸惑う矢澤をよそに、部屋の中へと入ってゆく「タマ」。
帰らせようとするが、「シャーッ」と威嚇されたり、
暗くて狭い場所に隠れたり、まさに猫の仕草をされる。
あまりのプロっぷりに圧倒された矢澤は、
今日だけ付き合ってみようと考え猫じゃらしを取り出し──
ちー
ちちち
に゛ゃーーっっ
にゃ
にゃっ
た…
楽しいぞ
1日過ごしたあと、すっかりハマってしまった矢澤。
近々会いたいと思いつつも、頻繁に呼べるほど裕福ではない。
プライベートでも老人や孤児たちの面倒を見ている彼は、
慎ましい生活をしていても余裕とは言えない状況だった。
ある日、矢澤が面倒を見ていた老夫が静かに息を引き取った。
矢澤の目の前での出来事だった。
そのときの死に際の言葉に感情を揺さぶられるが、
何もしてやることはできず、不甲斐なさに打ちひしがれる。
タマを呼ぶと、黙って寄り添ってくれた。
引用元:らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』22-24ページ、大洋図書、2023年
タマが町を出ることに!?
タマと何度か交流しているうちに、タマの本質が気になってきた矢澤。
情報通の知り合いに聞いてみると、
「猫レンタル」を運営している男の情報を得ることができた。
なんと、近々あたらしい町へ移動するという。
タマも一緒に連れていかれる可能性がある。
しかし「猫レンタル」中のタマには深く聞くことができない。
…このままずっと
うちにいてくれたら
いいのに…
!
引用元:らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』79ページ、大洋図書、2023年
目を輝かせるタマに、「まんざらでもないのかも」と期待を抱く矢澤。
しかし、そうするための金が足りないとボヤく。
それを聞いていたタマは、ある作戦を思いつく。
逃げ出した2人は……
俺も お前と一緒に 幸せに なりたかったんだ
引用元:らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』176ページ、大洋図書、2023年
ヤクザの事務所で金庫番を任されたタマ。
大金を盗み出し、ビルを飛び越え、矢澤の元へと向かおうとするが……。
続きは本編で!
らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』 感想と考察(作品レビュー)
ディストピア日本の限界集落が舞台
日本が社会保障制度を手放した後の世界を描いています。余力のある自治体は良いけれど、地方は資金がなく露頭に迷う人も。過去シーンでは、将来そうなるだろうと感じられるシーンが出ていました。あの小さい町で、孤児になっている子供の数が多すぎる。
そんな環境で育ったにも関わらず、あえて公務員という職業を選んだ主人公・矢澤(攻め)。誰かがやらないともっと酷い状況になると思ったのかな、という真面目な性格です(※詳しくは書かれていないため、あくまで推測)。
ゆるやかに堕ちていくディストピア日本が舞台であることを冒頭で告げ、ストーリーに入っていきます。一体どうなっちまうんだ……と感じさせる不安いっぱいのスタート。
タマの猫演技がうますぎる理由とは
不穏なスタートと裏腹に、「レンタルねこ」としてやってきたタマの動きはとにかくコミカル!
タマ、猫っぽい仕草・動作がうますぎです(笑)。
最初は「猫獣人であることを隠して働いているのかも?」とか、「ヤクザに猫として育てられたのか?」とか「自分を猫であると思い込むことで現実逃避している子?」とか考えてしまうほど。
結果的には演技で、実際は普通に話せる男の子。では何故そんなにも猫の真似が上手いのか。それは、過去に猫と過ごす時間が長かったから。ネグレクトされていたころに一緒に過ごしていたのが猫たちだったんだなと分かる1コマ(88ページ)があります。初読では見逃していて、「なんでタマはこんなに猫の真似が上手かったんだろう」と読み直しての発見でした。繰り返し読んでも面白い作品です!
オープンエンドなラストシーン
話題となっているクライマックス。
さみしいだけではない、少し不思議で、救いのあるラストシーンが印象的です。
読者の想像に委ねられている「オープンエンド」です。猫として転生・再会したけれど、青はどう思っているのか。過去の記憶はあるのか。人間として転生しなかったことは幸せなのか。解釈によって捉え方が異なります。
私としては、描き下ろしの最後の吹き出しが特に気になりました。このセリフ後の反応は何も描かれていないのがまた秀逸! 幾重にも解釈できて、想像が広がります。
紙の本で買ったか、電子書籍で買ったかで評価が分かれそう
「死んでしまったことにガッカリした」というレビューをいくつか見かけました。おそらく電子書籍で買った人ではないかなと思います。というのも、紙の本は死ネタの匂いプンプンさせまくりだからです。
表のキャッチコピー(帯):ありがとう いい夢見れた
裏のキャッチコピー(帯):俺も お前と一緒に幸せになりたかったんだ
裏の紹介文:愛しいと、最期に思える存在。
もはや確定演出だと思いました。
とくに「最後」でなく「最期」を使ってきているので、「おっ! こいつぁ良質な死ネタの香りがするぜぇ〜!!」とオラはワクワクしました。そういうの読みたくなるときあるじゃん(常に死ネタを求めている者ではないです、念のため)。
一方、電子書籍では、帯が取っ払われてしまっている状態。つまり紹介文の「最期」だけで判断するカタチになります。ちなみに経験上、電子書籍では購入前に紹介文を読むことがほぼない……! 試し読みできるから……! そして冒頭が気になったらカートに入れている……! そこにハッピーエンド大好きマンたちとの乖離が生じてしまったのかな〜と推測しました。違ったらごめんなさい。
はたしてボーイズラブなのか!?
正直なところ、ボーイズラブというよりも、もっと大きな括りの「愛」ではないかと思う2人でした。求めたかった父性と、与えたかった父性のような印象。お互いロクでもない父親から逃げ出した過去があるので、「理想の父親像」「自分が父親になったらこうなりたい願望」のようなものが感じられました。絡みがなかったのも大きい気がします。
リアクションは2人共めちゃくちゃかわいいんですよ。スキンシップでドキドキしたり、小さな言動に喜んだり、キスしたあとの照れ顔!! どっちもかわいくってニマニマする。個人的に三白眼の赤面が好きなので攻めにグッと来ました。キュンとしたのは確かなんですが、「これは……恋愛や性欲というより、父性や保護欲に近いのでは?」と感じる部分も多かったです。実際の飼い主と猫の愛情に近い印象を抱くかもしれません。そういったところで、猫に転生したエンディングがしっくりきたと思います。
BLでなくても、一般青年誌/女性誌とかでもいけたんじゃないかな〜と思った関係性でした。いろんな方に読んでほしい1冊ですね。
らくたしょうこ『レンタルタマちゃん』 全体のまとめ
あらためて全体をおさらいすると、こんな作品です。
以上、らくたしょうこ先生のBLコミック『レンタルタマちゃん』の紹介でした!